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100625京都新聞『私論公論』再録

京都新聞 2010年6月25日金曜日 私論公論

新局面の京都水族館計画
市民とオープンな議論の場を

京都造形芸術大学准教授 下村泰史


 この5月14日、京都市はオリックス不動産(以下「オリックス」という)に対して、(仮称)京都水族館(以下「水族館」という)の設置許可を与えた。本紙の投書欄などでも多くの議論が交わされてきた水族館計画は、新たな局面を迎えることとなった。

 この水族館計画についての批判は多岐にわたるが、大きくは、⑴駐車場や鉄道水族館計画も含む、公園全体と地域の関わりの問題、⑵水族館を中心とした環境教育的展示・運営企画の問題、⑶民間企業による公園施設の設置運営に関する合意形成の問題、の三点に整理できるのではないかと思う。ここでは後二者を中心に考えてみたい。

 京都のまちなかに環境教育施設として水族館を建設することについて違和感を持つ人が多いようだが、京都のさまざま自然環境とその歴史的なりたち、そこでの保全活動などを紹介し、実際のフィールドに繋げていく「ビジターセンター」は有益だ。このようなフィールド連携の視点は、整備構想検討委員会(2008年12月答申)でも議論されている。

 だが、09年12月にオリックスによって発表された水族館計画「水紀行」には、京都の環境については表面的な記述しかなく、そうした議論を踏まえたものとは思えないものであった。事業者側の誠実性に疑問を感じざるを得なかったのは、私だけではあるまい。この計画については地元説明会こそ行われたものの、市民の意見を聴取する機会は設けられぬまま、先の設置許可に至っている。
 設置許可を決定する前に、市は検討委員会の元委員たちに、提出された計画の妥当性について意見を求めている。報道によれば、相当の苦言もあったと聞く。委員長だった森本幸裕京都大学教授は設置許可直後の5月16日、本紙において「森川里海連環の館」の理念を改めて論じ、オリックスの計画に一定の批判を加えている。これらの意見をどのように踏まえて許可の結論を出したのか、市は現時点では十分に明らかにしていない。

 これまでの市とオリックスの対応には問題が多いが、市民サイドにも、市とオリックスを一方的に指弾するような活動ばかりが目立った。中立的で冷静なコミュニケーションの場はこれまで生まれなかったのである。
 04年の都市公園法の改正によって、民間事業者に公園施設の設置運営への門戸が大きく開かれた。この水族館(オリックス)と東京の宮下公園(ナイキ)の事例は、この運用にあたっての市民的な合意形成のためのルールとマナーが整っていないことを示している。首長と企業の恣意でいかようにもなってしまうかのように見えるのだ。

 逆に言えば、梅小路公園再整備の過程で、民間事業者の参加についての市民的な合意を作り出す仕組みを作れれば、それは全国に先駆ける画期的な事例になるはずだ。
 現計画のままでは水族館も公園も中途半端なものになってしまう。作る以上は、京都に生きる人にとって意義あるものとしなくてはならない。そのためにオープンな議論ができる場を、市民セクターとの協働によって創設することを呼びかけたい。「森川里海連環」の理念を実現するには、フィールドからの視点と街に生きる人の声が不可欠なのだから。

 そうした場を通じてこそ、梅小路公園は京都市民にとって一層意義深いものとなっていくだろう


by kotoba1e | 2010-06-26 23:01 | 梅小路水族館をめぐって
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