ネルグイ&クグルシン
京都は今日も午前中は吹雪いていた。昼いちで子どもの学習塾の保護者会みたいなのに行ったが、これについてはあまり書きたくない。学校の教科書が易しくなったと言われるが、子どもは一層大変になっている。学校がまた難しくなれば、それはそれでまた大変になるのだろう。
まあ、それはおいといて、夕方から烏丸御池近く、と言ったら怒られそうだな。堺町姉小路と言えばいいのだろうか、にある「堺町画廊」にて、モンゴルから来られたネルグイさんとクグルシンさんのライブを聴きに行った。 ネルグイさんは馬頭琴の名手。クグルシンさんはドンブラの名手である。クグルシンさんは、カザフ系の方で、このドンブラという楽器も、トルコのサズにそっくりである。サズが三弦(×2)で複雑な倍音を発生するのに対して、このドンブラは2弦。ギターの1/3の弦しか持たないのだが、その表現力には恐れ入るばかりである。 ネルグイさんの馬頭琴の演奏は力強く味わい深いもの。ご存知のことと思うが、馬頭琴も2弦の擦弦楽器である。指の当て方によって複雑な倍音を発生する。ネルグイさんの演奏を聴いていると、これが日本の楽器でないのが不思議に思えてくる程に、懐かしい感じがする。尺八の代わりに馬追唄の伴奏に使ってもいいようにさえ思われてくる。「汽笛一声新橋の〜」の鉄道唱歌が、モンゴルで愛され民謡化しているというのもなんだか不思議だが面白く思われた。 クグルシンさんの弾き語りは、そういう我々の身内的な泥臭さから少し離れた感じ。むしろヨーロッパの民謡や、アメリカのカントリー音楽に通じる軽やかさを感じた。 同じ国にいながら、このお二人は数千キロを隔てて暮らしており、一緒に演奏することはほとんど考えられないとのこと。それがこの異国で可能になったというのは、縁だなあと思った。終演後一段落した後、コンサートに来ていたドンブラの演奏家の日本人の方とクグルシンさんとが、合奏していた。見事なものだった。遠く離れた異国で、自分の暮らしている地方の音楽を愛し、追求している人に出あうのって、どんな感じだったのだろう。 クグルシンさんとネルグイさんの合奏を聴くと、国境が溶けて流れてしまうような感じがした。 トゥバ共和国のホーメイ歌手、コンガロール・オンダールと、アメリカのブルース歌手ポール・ペナの交流を描いたドキュメンタリー映画「チンギス・ブルース」というのがあるという。その全編は未見なのだが、断片的な演奏シーンは見たことがある。それは素晴らしいもので、中央アジアの音楽でもあり、ブルースでもあるとしかいいようのないものが、二人の間で生まれていた。音楽というものは、こういう飛び越え方ができるのだと思った。 それと同じものが、この町家に到来していたのだと思った。 西村幹也さんによる進行は、軽妙かつ勉強になるものだった。カザフの人々の流浪は1990年代になっても続いていて、それが今生まれる歌と関わっていること、かつてのモンゴルの共産主義の元で、馬頭琴奏法のアカデミック化が進められ、そこで失われたものがあること、ネルグイさんはそれを持っていること、など、考えさせられるところが多かった。 客席には、若き馬頭琴奏者の福井則之さん、オルティンドーの伊藤麻衣子さん、ダムニェン奏者でもある佛教大学の小野田俊蔵先生の姿が見られた。 凝りに凝ったエレキ馬頭琴などで一部で有名な造形作家のOkaponさん、三度笠通信の加藤わこさんとお話できたのも良かった。いろんな輪が広がっていきそうな予感がする。
by kotoba1e
| 2008-02-25 00:36
| 喉歌入門記
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