朝の10時頃、外で烏の声がし出した。
あーあーという声が幾十も重なって降りてくるようだった。中には烏のものとも思われぬ、きゃーという悲鳴のような声も混じっていてぞっとした。
窓から外を見ると、通行人が足を止めて屋根の方を見上げているようだった。その間にもぎゃーぎゃーいう声の塊が、近づいたり遠ざかったりした。
なんだろうと思って外に出てみると、団地の住棟という住棟の上に、烏が並んで留まっている。おびただしい数である。そして何かある切実さをもって鳴き交わしているらしい。曇天を背景にして、真っ黒な鳥に高いところにずらりと並ばれると、見下されているような圧迫を感じる。
昔郷土資料館でもらった資料に、「死の予兆」というページがあって、そこに烏鳴きが悪いときには云々というのがあったのを思い出した。烏鳴きが悪いというのはこういうことかと、単純に納得した。今日、この団地で誰か死ぬのかもしれないと思った。そう思うことがまったく自然であるように感じられたのだった。